スカラー倍

行列スカラー倍について紹介します。

ここでは半環上の行列の行列に対して定義しますが、イメージを掴むなら実数上の行列を考えれば十分です。

行列のとの関係についても紹介します。

スカラー倍(scalar multiplication)

\(m,n\) を自然数として, \(S\) を半環とする.
\(S\) 上の \((m,n)\) 行列 \(A=(a_{ij})\) とスカラー(scalar) \(k\in S\) に対して \(A\) の \(k\) 倍を

\[kA=\left(
\begin{array}{ccc}
ka_{11} & \ldots & ka_{1n} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
ka_{m1} & \ldots & ka_{mn}
\end{array}
\right)=(ka_{ij})\]

で定義する.

\[3\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
9 & -5 
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
0 & 3 \\
27 & -15 
\end{pmatrix},\
-2\begin{pmatrix}
1 \\
0\\
-2\\ 
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
-2\\
0\\
4
\end{pmatrix}\]

スカラー倍と和

\(A, B\) を半環 \(S\) 上の \(m\times n\) 行列, \(k, l\in S\) とする.
このとき以下が成り立つ:

  • \(k(A+B)=kA+kB\)
  • \((k+l)A=kA+lA\)

証明

証明は行列の成分毎に見ればよい.
\(A, B\) の \((i,j)\)-成分をそれぞれ \(a_{ij}, b_{ij}\) とすると, 半環 \(S\) が分配的であることから.\[k(a_{ij}+b_{ij})=ka_{ij}+kb_{ij}\\
(k+l)a_{ij}=ka_{ij}+la_{ij}
\]となるので主張は成り立つ.

スカラー倍と積

\(A, B\) をそれぞれ半環 \(S\) 上の \(m\times n\) 行列, \(n\times l\) 行列, \(k, l\in S\) とする.
このとき以下が成り立つ:

  • \((kl)A=k(lA)\)
  • \(k(AB)=(kA)B=A(kB)\)

証明

証明は行列の成分毎に見ればよい.
\[(kl)a_{ij}=kla_{ij}=k(la_{ij})\] であるから \((kl)A=k(lA)\).
また, \(A=(a_{ip}), B=(b_{pj})\)とすると, \(AB\) の \((i,j)\)-成分は \(\displaystyle \sum_{p=1}^na_{ip}b_{pj}\) である. \[k\left(\sum_{p=1}^na_{ip}b_{pj}\right)=\sum_{p=1}^n(ka_{ip}b_{pj})=\sum_{p=1}^n(ka_{ip})b_{pj}=\sum_{p=1}^na_{ip}(kb_{pj})
\]であるが,
\(\displaystyle \sum_{p=1}^n(ka_{ip})b_{pj}\) は \((kA)B\) の \((i,j)\)-成分,
\(\displaystyle \sum_{p=1}^na_{ip}(kb_{pj})\) は \(A(kB)\) の \((i,j)\)-成分であるため \(k(AB)=(kA)B=A(kB)\) が成立する.

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