行列の積について紹介します。
ここでは半環上の行列の行列に対して定義しますが、イメージを掴むなら実数上の行列を考えれば十分です。
行列の積を定義するには成分の集合上に和と積が定義されている必要があります。
行列の和と合わせて考えると分配法則を満たします。
行列の積
\(m,n, l\) を自然数として, \(S\) を半環とする.
\(S\) 上の \(m\times n\) 行列 \(A=(a_{ij})\) と \(n\times l\) 行列 \(B=(b_{ij})\) に対して \(A\) と \(B\) の積を,\[c_{ij}=a_{i1}b_{1j}+a_{i2}b_{2j}+\cdots+a_{in}b_{nj}=\sum_{k=1}^{n}a_{ik}b_{kj}\] とするとき
\[AB=\left(
\begin{array}{ccc}
c_{11} & \ldots & c_{1l}\\
\vdots & \ddots & \vdots \\
c_{m1} & \ldots & c_{ml}
\end{array}
\right)=(c_{ij})_{\{1\le i\le m,1\le j\le l\}} \]
で定義する.
\(m\times n\) 行列と \(n\times l\) 行列 の積は \(m\times l\) 行列 となる.
\[\left(
\begin{array}{cccc}
\vdots & \vdots & & \vdots \\
a_{i1} & a_{i2} & \ldots & a_{in} \\
\vdots & \vdots & & \vdots
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{ccc}
\ldots & b_{1j} & \ldots\\
\ldots & b_{2j} & \ldots\\
\vdots & & \vdots \\
\ldots & b_{nj} & \ldots
\end{array}
\right)
=\left(
\begin{array}{ccc}
& \vdots & \\
\ldots & c_{ij} & \ldots \\
& \vdots &
\end{array}
\right)
\]
\(n\neq n^\prime\) のとき, \(m\times n\) 行列と \(n^\prime \times l\) 行列 の積は定義されない.
例
\[
\begin{eqnarray*}
\begin{pmatrix}
2 & 1 & 0\\
9 & 0 & -5
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
3 & 0 \\
-6 & 8 \\
1 & 3
\end{pmatrix}&=&
\begin{pmatrix}
2\cdot 3 + 1\cdot (-6) + 0\cdot 1 & 2\cdot 0 + 1\cdot 8 + 0\cdot 3 \\
9\cdot 3 + 0\cdot (-6) + (-5)\cdot 1 & 9\cdot 0 + 0\cdot 8 + (-5)\cdot 3
\end{pmatrix}\\
&=&\begin{pmatrix}
1 & 8 \\
22 & -15
\end{pmatrix}
\end{eqnarray*}\\
\begin{pmatrix}
3 & 0 & -1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
-2\\
1\\
-1
\end{pmatrix}=-5
\]
積の性質
半環 \(S\) 上の \(m\times n\) 行列 \(A\), \(n\times l\) 行列 \(B\), \(l\times k\) 行列 \(C\) に対して
- 結合律 : \((AB)C=A(BC)\)
が成り立つ.
また 半環 \(S\) 上の \(m\times n\) 行列 \(A\), \(n\times l\) 行列 \(B, C\), \(l\times k\) 行列 \(D\) に対して
- 分配律 :
- \(A(B+C)=AB+AC\)
- \((B+C)D=BD+CD\)
が成り立つ.
証明
証明は行列の成分毎に見ればよい.
結合律
\(A, B, C\) の \((i,j)\)-成分をそれぞれ \(a_{ij}, b_{ij}, c_{ij}\) とすると,
\(AB\) の \((i,q)\)-成分は \(\displaystyle \sum_{p=1}^{n}a_{ip}b_{pq}\) なので \((AB)C\) の \((i,j)\)-成分は\[
\sum_{q=1}^l\left(\sum_{p=1}^{n}a_{ip}b_{pq}\right)c_{qj}=\sum_{q=1}^{l}\sum_{p=1}^{n}a_{iq}b_{qp}c_{pj}
\]
同様に \(BC\) の \((p,j)\)-成分は \(\displaystyle \sum_{q=1}^{l}b_{pq}c_{qj}\) なので \(AB(C)\) の \((i,j)\)-成分は\[
\sum_{p=1}^{n}a_{ip}\left(\sum_{q=1}^{l}b_{pq}c_{qj}\right)=\sum_{p=1}^{n}\sum_{q=1}^{l}a_{iq}b_{qp}c_{pj}
\] よって \((AB)C\) と \(A(BC)\) の \((i,j)\)-成分は等しくなり, \((AB)C=A(BC)\) が言える.
分配律
\(B+C\) の \((p,j)\)-成分は \(b_{pj}+c_{pj}\) なので \(A(B+C)\) の \((i,j)\)-成分は\[
\sum_{p=1}^la_{ip}\left(b_{pj}+c_{pj}\right)=\sum_{p=1}^la_{ip}b_{pj}+\sum_{p=1}^la_{ip}c_{pj}
\] となるが, これは \(AB\) の \((i,j)\)-成分と\(AC\) の \((i,j)\)-成分の和なので
\(AB+AC\) の \((i,j)\)-成分である. ゆえに \(A(B+C)=AB+AC\).
\((B+C)D=BD+CD\) も同様.
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