自然数の演算

自然数帰納的定義を用いて和と積を定義することが出来ます。

自然数の加法写像

\((\mathbf{N}, 0, \sigma)\) が自然数の公理を満たすものとする.
このとき \(m\in\mathbf{N}\) に対して

  1. \(f_m(0)=m\)
  2. 任意の \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(f_m(\sigma(n))=\sigma(f_m(n))\).

を満たす 写像 \(f_m\ \colon\ \mathbf{N}\to\mathbf{N}\) が一意的に存在する.

証明

帰納的定義の \((X,x_0,\varphi)\) を \((\mathbf{N},m,\sigma)\) で考えれば良い.

自然数の加法

任意の自然数 \(m, n\in\mathbf{N}\) に対して \(m,n\) の \(m+n\) を \[m+n=f_m(n)\] で定義する.
和 \(+\ \colon\ \mathbf{N}\times\mathbf{N}\to\mathbf{N}\) は二項演算である.

加法の基本性質

任意の自然数 \(m, n\in\mathbf{N}\) に対して

  1. \(m+0=m\)
  2. \(m+\sigma(n)=\sigma(m+n)\)
  3. \(\sigma(m)=m+1\)
  4. \(0+n=n\)
  5. \(\sigma(m)+n=\sigma(m+n)\)

が成り立つ.

証明

1・2は定義から明らか.
3は \(1=\sigma(0)\) なので1・2から分かる.

4.
\(\mathrm{id}_\mathbf{N}\) は \(\mathrm{id}_\mathbf{N}(0)=0,\ \mathrm{id}_\mathbf{N}\circ\sigma=\sigma\circ\mathrm{id}_\mathbf{N}\) を満たすので \(f_0=\mathrm{id}_\mathbf{N}\).

5.
\(\sigma\circ f_m\) は \((\sigma\circ f_m)(0)=\sigma(m),\ (\sigma\circ f_m)\circ\sigma=\sigma\circ(f_m\circ\sigma)=\sigma\circ(\sigma\circ f_m)\) を満たすので \(f_{\sigma(m)}=\sigma\circ f_m\).

加法の性質

任意の自然数 \(l, m, n\in\mathbf{N}\) に対して

  1. 結合律 : \((l+m)+n=l+(m+n)\)
  2. 交換律 : \(m+n=n+m\)
  3. 簡約律 : \(m+l=n+l\) ならば \(m=n\)

が成り立つ.

証明

1.
任意の自然数 \(m, n\in\mathbf{N}\) に対して \((l+m)+n=l+(m+n)\) が成立する \(l\) 全体の集合を \(S\) とおく.
\((0+m)+n=m+n=0+(m+n)\) より, \(0\in S\).
また, \(l\in S\) のとき, \((l+m)+n=l+(m+n)\) なので
\((\sigma(l)+m)+n=\sigma(l+m)+n=\sigma((l+m)+n)=\sigma(l+(m+n))=\sigma(l)+(m+n)\)
であるから \(\sigma(l)\in S\) となり, 数学的帰納法の公理より \(S=\mathbf{N}\) が分かる.

2.
任意の自然数 \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(m+n=n+m\) が成立する \(m\) 全体の集合を \(S\) とおく.
\(0+n=n=0+n\) より, \(0\in S\).
また, \(m\in S\) のとき, \(m+n=n+m\) なので
\(\sigma(m)+n=\sigma(m+n)=\sigma(n+m)=n+\sigma(m)\)
であるから \(\sigma(m)\in S\) となり, 数学的帰納法の公理より \(S=\mathbf{N}\) が分かる.

3.
任意の自然数 \(m, n\in\mathbf{N}\) に対して \(m+l=n+l\) ならば \(m=n\) が成立する \(l\) 全体の集合を \(S\) とおく.
\(m+0=n+0\) ならば \(m=m+0=n+0+n\) なので \(0\in S\).
\(l\in S\) ならば \(m+l=n+l\) ならば \(m=n\) であるが
\(m+\sigma(l)=n+\sigma(l)\) とすると \(m+\sigma(l)=\sigma(m+l),\ n+\sigma(l)=\sigma(n+l)\) なので \(\sigma(m+l)=\sigma(n+l)\).
\(\sigma\) は単射なので \(m+l=n+l\) となり仮定より \(m=n\).
ゆえに \(\sigma(l)\in S\) なので, 数学的帰納法の公理より \(S=\mathbf{N}\) が分かる.

自然数の乗法写像

\((\mathbf{N}, 0, \sigma)\) が自然数の公理を満たすものとする.
このとき \(m\in\mathbf{N}\) に対して

  1. \(g_m(0)=0\)
  2. 任意の \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(g_m(\sigma(n))=f_m(g_m(n))\).

を満たす 写像 \(g_m\ \colon\ \mathbf{N}\to\mathbf{N}\) が一意的に存在する.

証明

帰納的定義の \((X,x_0,\varphi)\) を \((\mathbf{N},0,f_m)\) で考えれば良い.

自然数の乗法

任意の自然数 \(m, n\in\mathbf{N}\) に対して \(m,n\) の \(mn\) を \[mn=g_m(n)\] で定義する.
積 \(\,\cdot\ \ \colon\ \mathbf{N}\times\mathbf{N}\to\mathbf{N}\) は二項演算である.

乗法の基本性質

任意の自然数 \(m, n\in\mathbf{N}\) に対して

  1. \(m0=0\)
  2. \(m\cdot \sigma(n)=m(n+1)=mn+m\)
  3. \(m1=m\)
  4. \(0n=0\)
  5. \(\sigma(m)\cdot n=(m+1)n=mn+n\)
  6. \(m\neq0, n\neq0\) ならば \(mn\neq0\)

が成り立つ.

証明

1・2は定義から明らか.
3は \(1=\sigma(0)\) なので1・2と加法の性質から分かる.

4.
全ての元を \(0\) に移す定値写像 \(\mathbf{0}\) は \(\mathbf{0}(0)=0,\ \mathbf{0}\circ\sigma=f_0\circ\mathbf{0}\) を満たすので \(g_0=\mathbf{0}\).

5.
\(h(n)=mn+n\) とすると, \(h(0)=m0+0=0\) であって
\(h(\sigma(n))=m\cdot\sigma(n)+\sigma(n)\) であるが, 加法の性質を駆使すると \[
\begin{align*}
f_{\sigma(m)}(h(n))=f_{\sigma(m)}(mn+n)&=\sigma(m)+(mn+n)\\
&=(m+1)+(mn+n)\\
&=mn+m+n+1\\
&=m(n+1)+(n+1)\\
&=m\cdot\sigma(n)+\sigma(n)
\end{align*}\] となるので \(g_{\sigma(m)}=h\).

6.
\(m\neq0\) なので \(m=\sigma(m^\prime)=m^\prime+1\)
\(n\neq0\) なので \(n=\sigma(n^\prime)=n^\prime+1\) と書けるが
\(mn=(m^\prime+1)(n^\prime+1)=m^\prime n^\prime+m^\prime+n^\prime+1=\sigma(m^\prime n^\prime+m^\prime+n^\prime)\)
なので \(mn\neq0\).

乗法の性質

任意の自然数 \(l, m, n\in\mathbf{N}\) に対して

  1. 結合律 : \((lm)n=l(mn)\)
  2. 交換律 : \(mn=nm\)
  3. 分配律 : \(l(m+n)=lm+ln\)
  4. 簡約律 : \(ml=nl\) かつ \(l\neq0\) ならば \(m=n\)

が成り立つ.

証明

証明のしやすさから2→3→1の順に証明する.

2.
任意の自然数 \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(mn=nm\) が成立する \(m\) 全体の集合を \(S\) とおく.
\(0n=0=n0\) より, \(0\in S\).
また, \(m\in S\) のとき, \(mn=nm\) なので
\(\sigma(m)\cdot n=mn+n=nm+n=n\cdot\sigma(m)\)
であるから \(\sigma(m)\in S\) となり, 数学的帰納法の公理より \(S=\mathbf{N}\) が分かる.

3.
任意の自然数 \(l,m\in\mathbf{N}\) に対して \(l(m+n)=lm+ln\) が成立する \(n\) 全体の集合を \(S\) とおく.
\(0(m+n)=0=0m+0n\) より, \(0\in S\).
また, \(n\in S\) のとき,
\(l(m+\sigma(n))=l(m+(n+1))=l((m+1)+n)\)
であるが, 任意の自然数 \(l,m\in\mathbf{N}\) に対して \(l(m+n)=lm+ln\) なので
\(m\) を \(m+1\) に変えて
\(l((m+1)+n)=l(m+1)+ln=lm+l+ln=lm+(ln+l)=lm+l\cdot\sigma(n)\)
であるから, 結局 \(l(m+\sigma(n))=lm+l\cdot\sigma(n)\) より \(\sigma(n)\in S\) となり,
数学的帰納法の公理より \(S=\mathbf{N}\) が分かる.

1.
任意の自然数 \(m, n\in\mathbf{N}\) に対して \((lm)n=l(mn)\) が成立する \(l\) 全体の集合を \(S\) とおく.
\((0m)n=0n=0=0(mn)\) より, \(0\in S\).
また, \(l\in S\) のとき \((lm)n=l(mn)\) であるが
\((\sigma(l)m)n=((l+1)m)n=(lm+m)n=(lm)n+mn\)
\(\sigma(l)(mn)=(l+1)(mn)=l(mn)+mn\)
なので \((\sigma(l)m)n=\sigma(l)(mn)\) が成り立ち \(\sigma(l)\in S\) が分かる.
数学的帰納法の公理より \(S=\mathbf{N}\) が分かる.

4.
自然数の順序を使うと簡単に示せる.
(ここで使う順序の性質の証明に積の簡約律は使用しないので循環論法にはならない)
\(ml=nl\) かつ \(l\neq0\) のとき, \(m<n\) とすると \(n=m+k\) を満たす自然数 \(k\neq0\) が存在するが,
\(ml+0=ml=nl=(m+k)l=ml+kl\) なので, 加法の簡約律より \(kl=0\).
\(l\neq0\) なので \(k=0\) となるがこれは矛盾.
\(m>n\) の時も同様に矛盾するので, \(m=n\) が分かる.

自然数半環

次が言える;

  1. \((\mathbf{N}, +)\) は \(0\) を単位元とする可換モノイドである.
  2. \((\mathbf{N}, \cdot\ )\) は \(1\) を単位元とする可換モノイドである.
  3. \((\mathbf{N}, +, \cdot\ )\) は \(0\) を零元, \(1\) を単位元とする可換半環である.
証明

モノイド半環の定義と, 加法・乗法の性質から明らか.

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