自然数とはどんなものかは直感的に理解できると思いますが、
定義はどんなものかを考えると難しいと思います。
ここでは、有名なペアノの公理を用いて自然数を定義・構成しようと思います。
演算や順序については別の記事で紹介しています。
自然数を定義できると、整数→有理数→実数→複素数→…などのように「数」を広げていくことが出来ます。
\(0\) を自然数に含めるか否かは、見方によって変わりますが、今回は \(0\) を自然数として考えていきます。
自然数の定義(ペアノの公理)
集合 \(\mathbf{N}\) とその元 \(0\in\mathbf{N}\) および写像 \(\sigma\ \colon\ \mathbf{N}\to\mathbf{N}\) の組 \((\mathbf{N}, 0, \sigma)\) が次の公理を満たすとする;
- \(\sigma\) は単射である.
- \(0\notin\sigma(\mathbf{N})\).
- \(S\subset\mathbf{N}\) が \(0\in S\) かつ \(\sigma(S)\subset S\) ならば \(S=\mathbf{N}\).
このとき, \(\mathbf{N}\) の元を自然数(Natural number)という.
写像 \(\sigma\) は後継者写像(successor function), 公理3は数学的帰納法の公理と呼ばれる.
また
- \(1=\sigma(0)\)
- \(2=\sigma(1)=\sigma(\sigma(0))\)
- \(3=\sigma(2)=\sigma(\sigma(\sigma(0)))\)
などと記号を定義する.
自然数の構成(フォン・ノイマン)
- \(\mathbf{N}\) を最小の帰納的集合, つまり \(\mathbf{N}=\left\{\ \emptyset,\ \{\emptyset\},\ \{\emptyset,\ \{\emptyset\}\},\ \{\emptyset,\ \{\emptyset\},\ \{\emptyset,\ \{\emptyset\}\}\}, \ldots \ \right\}\)
- \(0\) を \(0=\emptyset\in\mathbf{N}\)
- \(\sigma\ \colon\ \mathbf{N}\to\mathbf{N}\) を \(x\in\mathbf{N}\) に対して \(\sigma(x)=x\cup \{x\}\)
とすると, この \((\mathbf{N}, 0, \sigma)\) はペアノの公理を満たす.
証明
1.\(\sigma\) は単射であること.
\(x,y\in\mathbf{N}\) に対して \(x\neq y\) すると \(x\cup\{x\}\neq y\cup\{y\}\) であるから \(\sigma(x)\neq\sigma(y)\).
2.\(0\notin\sigma(\mathbf{N})\) は明らか.
3.\(S\subset\mathbf{N}\) が \(0\in S\) かつ \(\sigma(S)\subset S\) ならば \(S=\mathbf{N}\) をみたすこと.
\(S\) は帰納的集合なので \(\mathbf{N}\subset S\). \(S\subset\mathbf{N}\) であったので \(S=\mathbf{N}\).
公理を満たす自然数が存在することが分かったので、ここからは自然数の性質を見ていきます。
補題1
任意の \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(\sigma(n)\neq n\).
証明
\(S=\{n\in\mathbf{N}\mid \sigma(n)\neq n\}\) とすると, 公理2より \(0\in S\).
また \(n\in S\) とすると \(\sigma(n)\neq n\) であることと, 公理1より \(\sigma(\sigma(n))\neq \sigma(n)\) なので \(\sigma(n)\in\mathbf{N}\).
よって \(\sigma(S)\subset S\) である.
ゆえに公理3より \(S=\mathbf{N}\) となる.
補題2
\(n\in\mathbf{N}\) が \(n\neq 0\) ならば \(\sigma(m)=n\) となる \(m\in\mathbf{N}\) が存在する.
証明
\(n\neq 0\) ならば \(n\in\sigma(\mathbf{N})\) を示せば良い.
\(S=\{0\}\cup\sigma(\mathbf{N})\) は公理3の条件を満たすので \(S=\mathbf{N}\) となる.
よって \(n\in\mathbf{N}\) は \(n\in\{0\}\) または \(n\in\sigma(\mathbf{N})\) となるが \(n\neq 0\) ならば \(n\in\sigma(\mathbf{N})\) である.
次の定理は, 集合 \(X\) 上の数列 \(a_0,\ a_1,\ a_2,\ a_3,\ldots\) が定義できることを意味しています。
これと公理3によって数列に対して数学的帰納法が使えます。
定理1(帰納的定義)
\(X\) を集合として, \(x_0\in X\) と写像 \(\varphi\ \colon\ X\to X\) が与えられたとする. このとき
- \(f(0)=x_0\)
- 任意の \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(f(\sigma(n))=\varphi(f(n))\).
を満たす 写像 \(f\ \colon\ \mathbf{N}\to X\) が一意的に存在する.
証明
\(f\) の存在を示す.
\(\mathbf{N}\times X\) の部分集合 \(A\) で
- \((0,x_0)\in A\)
- \((n,x)\in A\) ならば \((\sigma(n),\varphi(x))\in A\)
を満たすものを考える. このような集合を \((x_0,\varphi)\)-集合と呼ぶことにする.
\(\mathbf{N}\times X\) 自身は \((x_0,\varphi)\)-集合なので \((x_0,\varphi)\)-集合は存在する.
全ての \((x_0,\varphi)\)-集合の共通部分を \(I\) とすると, \(I\) は \((x_0,\varphi)\)-集合である.
また \(I\) は包含関係で最小の \((x_0,\varphi)\)-集合である.
ここで \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(X_n=\{x\in X\mid (n,x)\in I\}\) として,
\(S=\{n\in\mathbf{N}\mid \# X_n=1\}\) とおく(\(\# A\) は集合 \(A\) の濃度).
\(y\neq x\) が \(y\in X_0\) であるとすると, \(I\,\backslash \{(0,y)\}\) が \((x_0,\varphi)\)-集合となり, \(I\) の最小性に矛盾する.
よって \(X_0=\{x_0\}\) なので \(0\in S\) である.
ここで \(X_n=\{x\}\) と仮定する. \((n,x)\in I\) であるから \((x_0,\varphi)\)-集合の条件2より \((\sigma(n),\varphi(x))\in I\) である.
よって \(\varphi(x)\in X_{\sigma(n)}\) となる.
\(X_{\sigma(n)}\) が \(z\neq \varphi(x)\) なる元を含んだとすると
\(I\,\backslash \{(\sigma(n),z)\}\) は \((x_0,\varphi)\)-集合となるので \(I\) の最小性に矛盾する.
ゆえに \(X_{\sigma(n)}=\{\varphi(x)\}\) であるから \(\sigma(n)\in S\).
以上の事をまとめると
- \(0\in S\)
- \(n\in S\) ならば \(\sigma(n)\in S\).
となり, \(S\) は自然数の公理3の条件を満たすので \(S=\mathbf{N}\) が分かる.
ゆえに, 任意の \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(X_n\) は1元集合である.
\(X_n=\{x_n\}\) と書くこととして, 写像 \(f\ \colon\ \mathbf{N}\to X\) を \(f(n)=x_n\) で定める.
この \(f\) が主張の性質1・2を満たすのは明らかであるから, \(f\) の存在は示された.
\(f\) の一意性を示す.
\(f\ \colon\ \mathbf{N}\to X,\ f^\prime\ \colon\ \mathbf{N}\to X\) が共に性質1・2を満たすとき, \(S=\{n\in\mathbf{N}\mid f(n)=f^\prime(n)\}\) とおくと
\(f(0)=x_0=f^\prime(0)\) なので \(0\in S\) である.
\(n\in S\) とすると \(f(n)=f^\prime(n)\) であるが, \(f(\sigma(n))=\varphi(f(n))=\varphi(f^\prime(n))=f^\prime(\sigma(n))\)
となるので \(\sigma(n)\in S\).
\(S\) は自然数の公理3の条件を満たすので \(S=\mathbf{N}\).
これより, 任意の \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(f(n)=f^\prime(n)\) なので \(f=f^\prime\) が従う.
自然数の一意性
2つの組 \((\mathbf{N}, 0, \sigma)\) と \((\mathbf{N}^\prime, 0^\prime, \sigma^\prime)\) が共に自然数の公理を満たしているとする.
このとき, 全単射 \(f\ \colon\ \mathbf{N}\to\mathbf{N}^\prime\) で
- \(f(0)=0^\prime\)
- 任意の \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(f(\sigma(n))=\sigma^\prime(f(n))\).
を満たすものが一意的に存在する.
証明
上の定理より, 写像 \(f\ \colon\ \mathbf{N}\to \mathbf{N}^\prime,\ f^\prime\ \colon\ \mathbf{N}^\prime\to \mathbf{N}\) で \(f(0)=0^\prime,\ f^\prime(0^\prime)=0\),
任意の \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(f(\sigma(n))=\sigma^\prime(f(n))\),
任意の \(n^\prime\in\mathbf{N}^\prime\) に対して\(f^\prime(\sigma^\prime(n^\prime))=\sigma(f^\prime(n^\prime))\)
を満たすものが一意的に存在する.
\(g=f^\prime\circ f\) とおくと \(g\) は \(\mathbf{N}\) から \(\mathbf{N}\) への写像で
- \(g(0)=0^\prime\)
- 任意の \(n\in\mathbf{N}\) に対して \(g(\sigma(n))=\sigma(g(n))\).
を満たす. 恒等写像 \(\mathrm{id}_\mathbf{N}\) も条件を満たすので一意性より \(g=\mathrm{id}_\mathbf{N}\).
ゆえに \(f\) は全単射である.
この定理により、自然数の体系は本質的には1つしかない事が分かります。
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