積閉集合
半環 \(S\) の部分集合 \(T\) が
- \(1\in T, 0\notin T\)
- \(s, t\in T\ \Longrightarrow\ st\in T\)
を満たすとき, \(T\) を \(S\) の積閉集合(multiplicatively closed set)または乗法的集合(multiplicative set)という.
半環の局所化
\(S\) を可換半環, \(T\) を \(S\) の積閉集合とする.
\((a,s), (b,t) \in S\times T\) に対して, ある \(u\in T\) が存在して \(uat=ubs\) となるとき
\((a,s)\sim (b,t)\) と定義すると \(\sim\) は \(S\times T\) 上の同値関係となる.
\(\sim\) による商集合を \(T^{-1}S\) と書き, \((a,s)\) を含む同値類を \(\displaystyle \frac{a}{s}\) や \(a/s, s^{-1}a\) などと書く.
さらに \(T^{-1}S\) 上に和と積を \[\frac{a}{s}+\frac{b}{t}=\frac{at+bs}{st},\quad \frac{a}{s}\cdot\frac{b}{t}=\frac{ab}{st}\] で定義すると, これらは代表元の取り方に依らずwell-definedであり, \(T^{-1}S\) は可換環となる.
この環 \(T^{-1}S\) を \(S\) の \(T\) による局所化(localization)という.
\(T^{-1}S\) の零元は \(\displaystyle\frac{0}{1}\), 単位元は \(\displaystyle\frac{1}{1}\) であるが, \(0\) や \(1\) と書いても誤解は無い.
証明
同値関係であることと、演算のwell-defined性を示す.
\(\sim\) が同値関係であること
反射律と対称律は明らか.
\((a,s)\sim(b,t),\ (b,t)\sim(c,u)\) のとき, ある \(x, y\in T\) が存在して \(xat=xbs,\ ybu=yct\).
このとき, \(xyt\in T\) であり, \((xyt)au=yu\cdot xat=yu\cdot xbs=xs\cdot ybu=xs\cdot yct=(xyt)cs\)
であるから \((a,s)\sim(c,u)\).
ゆえに \(\sim\) は同値関係である.
演算のwell-defined性を示す.
\(\displaystyle\frac{a_1}{s_1}=\frac{a_2}{s_2}, \frac{b_1}{t_1}=\frac{b_2}{t_2}\) のとき,
\((a_1,s_1)\sim(a_2,s_2),\ (b_1,t_1)\sim(b_2,t_2)\) より, ある \(x, y\in T\) が存在して \(xa_1s_2=xa_2s_1,\ yb_1t_2=yb_2t_1\).
また, \[
\frac{a_1}{s_1}+\frac{b_1}{t_1}=\frac{a_1t_1+b_1s_1}{s_1t_1},\quad \frac{a_1}{s_1}\frac{b_1}{t_1}=\frac{a_1b_1}{s_1t_1}\\
\frac{a_2}{s_2}+\frac{b_2}{t_2}=\frac{a_2t_2+b_2s_2}{s_2t_2},\quad \frac{a_2}{s_2}\frac{b_2}{t_2}=\frac{a_2b_2}{s_2t_2}
\] であるが \[\begin{eqnarray*}
xy(a_1t_1+b_1s_1)s_2t_2&=&yt_1t_2\cdot xa_1s_2+xs_1s_2\cdot yb_1t_2\\
&=&yt_1t_2\cdot xa_2s_1+xs_1s_2\cdot yb_2t_1\\
&=&xy(a_2t_2+b_2s_2)s_1t_1\\
\end{eqnarray*}\] \[
xy(a_1b_1)s_2t_2=xa_1s_2\cdot yb_1t_2=xa_2s_1\cdot yb_2t_1=xy(a_2b_2)s_1t_1
\]であり, \(xy\in T\) なので \[(a_1t_1+b_1s_1,s_1t_1)\sim(a_2t_2+b_2s_2,s_2t_2),\quad (a_1b_1,s_1t_1)\sim(a_2b_2,s_2t_2)\]
ゆえに \[\frac{a_1t_1+b_1s_1}{s_1t_1}=\frac{a_2t_2+b_2s_2}{s_2t_2},\quad \frac{a_1b_1}{s_1t_1}=\frac{a_2b_2}{s_2t_2}\]
局所化の基本事項
\(S\) 可換半環, \(T\) を \(S\) の積閉集合とする.
- 写像 \(i : S\rightarrow T^{-1}S\ ;\ a\mapsto a/1\) は準同型写像である.
- \(T\) が零因子を含まなければ \(i\) は単射準同型写像である.
証明
1. \(a,b\in S\) に対して \[
i(a+b)=\frac{a+b}{1}=\frac{a}{1}+\frac{b}{1}=i(a)+i(b),\
i(ab)=\frac{ab}{1}=\frac{a}{1}\frac{b}{1}=i(a)i(b)
\] であり, \(i(1)=1/1=1, i(0)=0/1=0\) なので \(i\) は準同型写像である.
2. \(a\in S\) に対して \(i(a)=0\) のとき, \(a/1=0/1\) なので \(sa=0\) となる \(s\in T\) が存在する.
\(S\) は零因子を含まないので \(a=0\) となり, \(i\) が単射であることが分かる.
2. によって, \(T\) が零因子を含まなければ \(S\) を \(T^{-1}S\) の部分環とみなすことが出来ます。このようなとき、誤解が生じなければ単に \(S\subset T^{-1}S\) として考えます。
例
自然数半環 \(\mathbf{N}\) と正の整数 \(m\) に対して, \(T=\{1, m, m^2, m^3, \ldots \}\) と置くと \(T\) は \(\mathbf{N}\) の積閉集合です。
\(T^{-1}\mathbf{N}\) は \(a/m^n\ (a\in \mathbf{N})\) の形をした元全体の集合です。
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