環において重要なクラスである整域について紹介します。
整域であると、簡約律「\(ab=ac\Longrightarrow b=c\)」が成立するため、
元を求めたり、方程式を解いたりすることが簡単になります。
零因子
\(R\) を環とする. \(a\in R\) に対して,
\(0\) でない \(b\in R\) が存在して \(ab=0\) となるとき \(a\) を左零因子(left zero divisor)という.
\(0\) でない \(c\in R\) が存在して \(ca=0\) となるとき \(a\) を右零因子(right zero divisor)という.
左零因子と右零因子を総称して零因子(zero divisor)という.
可換の時は左と右に区別は無いので単に零因子と呼ぶ.
整域
可換環 \(R\) が \(0\) 以外に零因子を持たないとき, \(R\) を整域(integral domain)という.
整域であることの条件
\(R\) を可換環とする. 次は同値;
- \(R\) は整域である.
- \(a,b\in R\) に対して \(ab=0\) \(\Longrightarrow\) \(a=0\) または \(b=0\).
証明
1.\(\Longrightarrow\)2.
\(a, b\in R\) に対して \(ab=0\) のとき, \(a\neq0\) かつ \(b\neq0\) とすると
\(a, b\) は零因子となり整域であることに矛盾. ゆえに \(a=0\) または \(b=0\).
2.\(\Longrightarrow\)1.
\(a\in R\) が零因子だとすると \(0\) でない \(b\in R\) が存在して \(ab=0\).
\(ab=0\) ならば \(a=0\) または \(b=0\) であり, \(b\neq 0\) より \(a=0\).
ゆえに \(R\) の零因子は \(0\) のみ.
例
整数環 \(\mathbf{Z}\) は整域です。
例
行列環 \(M_2(\mathbf{R})\) は整域ではありません。例えば
\[A=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix},\ B=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}\] と置くと
\[AB=\begin{pmatrix}0&0\\0&0\end{pmatrix}\] となり, \(A\) は左零因子で \(B\) は右零因子です。
体について
体は整域である.
証明
体の \(0\) ではない元 \(a\) が零因子だとすると, ある \(0\) ではない元 \(b\) が存在して \(ab=0\) となる.
しかし, \(a\) は \(0\) ではないので逆元 \(a^{-1}\) が存在して \(ab=0\) の両辺に \(a^{-1}\) をかけると \(b=0\) となり矛盾.
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